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迎えに来たわよ 4

Author: 花室 芽苳
last update Last Updated: 2025-08-14 18:30:58

 その言葉でハッとする。

 意を決してここまで来たはずなのに、また迷い始めてしまった自分を要に見透かされてしまっていた。もう離れないと決めたはずなのに、私には覚悟が足りていなかったんだと。

「……そっか。要には私が不安に思ってる事まで、全部バレてしまっちゃうのね」

「当然だろう? 俺はこんなガキの頃から、誰よりも紗綾を見ているんだから」

 そうやって当たり前じゃ出来ないような事を、貴方は迷わず言えちゃうのよね。この人のそういう面にも強く惹かれているのは事実だけれど。誰よりも愛されてるのは分かってるし、それを実感もしている。

 ……いつも自信がないのは、私自身なだけで。

「俺が紗綾を幸せにしたい、それだけではダメか?」

「そうね、私的にはダメかもしれないわ」

 少し驚いたような表情をする要に構わず、言葉を続ける。だって彼のそういう考え方、ちょっとだけ納得いかないんだもの。

「要が私を幸せにしてくれるのなら、私には「俺を幸せにしてくれ」くらい言ってくれなきゃ。これは貴方と私、二人の未来なんだからね?」

「……紗綾」

 確かに要なら私の幸せそうな顔を見ていられれば、自分はそれだけでいい。なんて言い出しそうだけれど、それは私の望む幸福な未来とは違う。

 だから、ね? ちょっとぐらい要も私に望んで見せてよ。

「ははっ、俺はもうお前には一生勝てる気がしない。だから……俺を幸せにしてくれないか、紗綾」

「……ふふ、それなら出来る限り頑張ってみるわね」

 素直じゃない、そんなプロポーズの返事。でもこれが私たちらしい気もして、どちらからともなく腕を背に回して抱きしめ合った。

「紗綾」

 名前を呼ばれ顔を上げれば、要からの優しい口付けを受けることになる。柔らかな唇、少しカサついているのはやはり不眠のせいなのかしら?

 いつの間にかキスに夢中になってしまって、それが舌をも絡める深いものに変わっていた。静かな部屋に響く水音に反応するように、体の芯がジンジンと熱くなっていく。

「……はあ。要、これ以上は……きゃっ!」

 彼からのキスを止めようと顔を少し離した瞬間! 膝裏に手を添えられて、グンと持ち上げられた。

 そのまま要は私を肩に担ぐように持つと、黙ったまま奥の部屋に向かってズンズンと歩き出してしまう。

「ちょっと待って、要? 嘘でしょ、まだ昼間なのよっ!」

「……そんなこと知るか。
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  • 唇に触れる冷たい熱   迎えに来たわよ 4

     その言葉でハッとする。 意を決してここまで来たはずなのに、また迷い始めてしまった自分を要に見透かされてしまっていた。もう離れないと決めたはずなのに、私には覚悟が足りていなかったんだと。「……そっか。要には私が不安に思ってる事まで、全部バレてしまっちゃうのね」「当然だろう? 俺はこんなガキの頃から、誰よりも紗綾を見ているんだから」 そうやって当たり前じゃ出来ないような事を、貴方は迷わず言えちゃうのよね。この人のそういう面にも強く惹かれているのは事実だけれど。誰よりも愛されてるのは分かってるし、それを実感もしている。 ……いつも自信がないのは、私自身なだけで。「俺が紗綾を幸せにしたい、それだけではダメか?」「そうね、私的にはダメかもしれないわ」 少し驚いたような表情をする要に構わず、言葉を続ける。だって彼のそういう考え方、ちょっとだけ納得いかないんだもの。「要が私を幸せにしてくれるのなら、私には「俺を幸せにしてくれ」くらい言ってくれなきゃ。これは貴方と私、二人の未来なんだからね?」「……紗綾」 確かに要なら私の幸せそうな顔を見ていられれば、自分はそれだけでいい。なんて言い出しそうだけれど、それは私の望む幸福な未来とは違う。 だから、ね? ちょっとぐらい要も私に望んで見せてよ。「ははっ、俺はもうお前には一生勝てる気がしない。だから……俺を幸せにしてくれないか、紗綾」「……ふふ、それなら出来る限り頑張ってみるわね」 素直じゃない、そんなプロポーズの返事。でもこれが私たちらしい気もして、どちらからともなく腕を背に回して抱きしめ合った。 「紗綾」 名前を呼ばれ顔を上げれば、要からの優しい口付けを受けることになる。柔らかな唇、少しカサついているのはやはり不眠のせいなのかしら? いつの間にかキスに夢中になってしまって、それが舌をも絡める深いものに変わっていた。静かな部屋に響く水音に反応するように、体の芯がジンジンと熱くなっていく。 「……はあ。要、これ以上は……きゃっ!」 彼からのキスを止めようと顔を少し離した瞬間! 膝裏に手を添えられて、グンと持ち上げられた。 そのまま要は私を肩に担ぐように持つと、黙ったまま奥の部屋に向かってズンズンと歩き出してしまう。「ちょっと待って、要? 嘘でしょ、まだ昼間なのよっ!」「……そんなこと知るか。

  • 唇に触れる冷たい熱   迎えに来たわよ 3

    「……それで、確認しておきたいんだが。紗綾《さや》が迎えに来てくれたって事は、俺と暮らす気でいてくれてるって思っても良いのか?」 ソファーに座ったままだった私に、要《かなめ》がアイスカフェオレを用意してくれる。それを手渡され、隣に腰を下ろした彼に微笑んで答えた。「柊社長からは単身者用の住居を用意しますって、誘われた時に言ってもらったのだけれど。もう断っちゃったし、ここに住まわせてくれるしょう?」 もちろん柊社長は形式的にそう話しただけで、私が要と暮らすことは予想していたのだと思うけど。それでも私が選べるように、わざわざ選択肢を与えてくれたのだと分かってる。 意外な事に要は何も話を聞いてなかったのか、少し驚いた顔をしていて……「あの人は少し悪戯好きなところがあるから。そうやって俺がヤキモキするのを楽しんでいるのかもしれないな、全く」「そうなの? でもそう言われると、あんなに温厚そうなのに社長としての威厳もある人だったわ」「俺だって出来れば、紗綾に自分で選んで欲しいとは思ってる。でも……俺がお前の一番になりたい、これも本音だから」 困った様にそう話すから、余計に胸がキュンとしてしまう。こんなトキメキをくれる人は、どう考えても要しかいないのだから自信を持って欲しいのに。 私もこの人の一番でいたいし、これから先ずっと私の一番であって欲しい。「要は、私が貴方を選ぶまでずっと待ってるつもりでしょう? もう貴方を待たせたくないし、これ以上は私も待ちたくないもの」「紗綾……」 想いは通じ合ってるのに、ずっと遠回りばかりしてた。やっとこうして、素直な二人でいられる場所に立つことが出来たのだから。 そう考えながら二人の時間に浸っていると、突然要の口から思いもしない言葉が出てきた。「式はなるべく早い方が良いだろう? 紗綾のご両親にもきちんと挨拶したいし、いつ頃時間が取れそうか聞いておいてくれないか?」「……はい?」 式とは、何の式の事だろうか? もしかして……いや、そんな筈はないわよね。私はまだここに来たばかりだし、来週には本社での仕事が始まるのだもの。冗談とかいうのね、要も。 なんて思ってゆっくり要の方を見てみるが、彼は至極真面目な表情で。「まさかここまで来て、結婚はする気が無い……なんて言わないよな?」「私の方からすると、いきなり出た結婚話の方

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     ……この選択を後悔するかしないかなんて、今はまだ分からない事だけど。自分の心に素直に生きることがあっても良いんだって、そう思えるようになったのは要のおかげ。 優しい温もりと、愛しい香りに包まれて嬉しくて瞼が痛くなる。 ああ、これが幸せというものなんだと。 ……けれどふと気付く。以前と目の前の彼、思い切り抱きしめられたその違和感に。「要、あなた痩せた?」「……」 無言の肯定、離れていたのはそんなに長い期間ではない。なのにこうして触れて分かるほどに、彼の体重は減っていたようだ。 要は結構長身ではあるし、筋肉がついていて無駄な贅肉はない細マッチョという感じなのだけど。「年齢的に脂肪もつきやすくなるから、少し筋トレを増やしただけだ」「……そう。要は私に素直でいて欲しいというくせに、自分はそうやって心配かけないようにと見栄を張るのね?」 ジトっと見つめてそう言えば、流石の要も困った様に視線を泳がせる。素直になって欲しいのも、弱音を吐いて欲しいのもお互い様だもの。 これからも対等な関係でありたいからこそ、今度は私からやって来たのだから。 しばらくは戸惑っていたようだがそのうち諦めたのか、彼は頭を私の肩にのせるように置いてから小さな声で呟いた。「……紗綾がいなくて辛かった。夜もよく眠れなくて、仕事にがむしゃらになることで誤魔化してた」「そうだったの……」 こうしてこの人が、素直に私に甘えてくれるのはとても珍しい事。辛い思いをさせてしまったという申し訳なさと同時に、どうしようもなく母性本能が刺激されてしまって。 「可愛い」と言ったら、きっと要は怒ってしまうだろうけれど。そう言葉に出来ない代わりに、肩に置かれた頭を両手で優しく抱きこんだ。「……甘やかすのは、俺の役目のつもりだったんだが?」「たまには良いんじゃないの? 私にも愛しい相手から甘えられたいって、そう思う時だってあるもの」 ふふ、と微笑んで彼を困らせていると。リビングの奥から茶太郎が「チーチー」と鳴きだして、お互いの顔を見合わせた。「どうやら感激の再会もこのくらいにしておかなきゃみたいね? 茶太郎が「ご主人様を取るな」って怒ってるみたいだもの」「どうせアイツはおやつが欲しいだけだろう。こんな時なんだから、少しくらい待たせておけばいい」 そうぶつくさ言いながらも、要は茶太郎のため

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     ガラガラとキャリーケースを引きながら目的地を目指してズンズン歩く。 駅に並んでいたタクシーを使わないのは、新しく生活をする場所をきちんと確認しておきたかったのと新しく始まる生活に備えて。「思っていたよりも、こっちは暖かいのね」 今まで住んでいた場所に合う服装で来たので、歩いているうちに少し汗をかいてしまった。近くにあった自販機でお茶を買うと、喉を少し潤してからまた歩き出す。 トランクを引く右手、そして反対の左手の中には目的地の鍵がある。 これは要がいなくなってから数日後、私の仕事場のデスクに入れられていたもの。これもこうなることを予想して、誰かに頼んでいたのだろうか? そこにメモの一つも付けて無い所が彼らしい。 要はきっと柊社長に話を聞いたはずなのに、その話を受けろとも断れとも言ってくることは無かった。彼も私が自分で決めるべきだと判断したのでしょうね。 スマホのアプリで確認しながら進むと、グレーの大きなマンション。 名前を確認すると、どうやらここで間違いなさそう。 オートロックに鍵を差し込んで自動ドアを開き、奥にあるエレベータへ。ここまで来て胸のドキドキが止まらない。目的の部屋の前まで来ると、インターフォンを鳴らさずに鍵を使ってドアを開ける。部屋の主が不在な事は最初から分かっていたから。「やっぱり綺麗にしているわね、要《かなめ》らしい。ああ、茶太郎《ちゃたろう》も久しぶりね」 ペットのハムスターも変わらず元気そう。眠そうにしているところを悪いなと思いつつ、ふわふわの毛に指で触れる。 彼が帰ってくるまでまだ時間がある。先に夕飯の支度をしようと思って冷蔵庫を覗くと、前と違って何も入ってなくて。「忙しいのかしらね、ご主人様は」 とりあえず買い物をしようと、取り出しスマホで近くのスーパーを確認しながら玄関へ向かう。 靴を履いてドアノブに手をかけようとしたその時、カチャリとガキの開けられる音がした。 ゆっくりと開く扉、驚きで開かれる彼の瞳……「さ、あや……?」 ほら、あなたのそんな顔は初めて見れたんじゃないかしら?  作戦成功! とばかりに、ニコッと要《かなめ》に笑ってみせる。 このために柊《ひいらぎ》社長にも要には私が話を受けたことは全部秘密にしてもらっていたし、あえて私からも連絡はしなかった。「おかえりなさい、要。こんなに早く

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    「……やっぱりそうよね、要だもの」 鞄からスマホを取り出して眺めても、ホーム画面に何ら変化はない。昨日も一昨日も、ここに彼の名前が表示されることはなく。 柊社長に本社勤務の誘いを受けてから、もう二日経つ。返事をするのは早い方が良いに決まっているのに、いまだグズグズ悩んで答えを出せないまま。 仕事に関しては今までハッキリとした決断をしてきたはずの私、なのにどうしてこうも迷うのか。 あの日別れてから、要からは電話もメッセージも来ることはなかった。いつの間にかデスクの引き出しに入れられていた、白い封筒以外は……何も。 それが彼が私に望んでいる【答え】なのだと、気付いてはいるのだけれど。 柊社長から話を聞いているはずの部長が、私が不在になっても大丈夫なように仕事を割り振ってくれてることも有難いと思う。ここまでしてもらえるなんて、自分は恵まれてるんだって。 正直な話、色々な事があったけれど……やっぱり私はこの仕事が、この職場が好きだから。「今日も雨ですねえ、ここのところ空がスッキリしませんね」「そうね、でも……」 横井さんに話しかけられて、天気予報を確認する。確かに明日も明後日も雨予報で、この悪天候は続きそうだだ。「でもね、私は嫌いじゃないのよ。分厚い雲の隙間から少しだけ日が差す瞬間が……まるで、道しるべみたいで」「なるほど、確かにそうですね」 窓の外、指差した辺りに微かな日の光。それを見つめていると、PCからメールの受信音。その送り主が意外な人物で、緊張しながらメッセージを開く。 そこには、一枚の画像ファイル。ただ大きく広がる大地と青空が写し出されて……たったそれだけで、今の彼は過去を振り切って前に進んでるんだと分かるものだった。 一言のメッセージもない。それでもその写真を送ってきた彼に『紗綾も頑張れ!』と、言われてる気がして。「これは負けてられないって、思うしかないじゃない。狡いわね、彬斗君」「……? どうしました、主任。今、嫌な名前が聞こえた気が……」 伊藤君の名前に、露骨に嫌な顔をしだす横井さん。色々助けてくれたし、ちょっとだけメールを見てもらい二人でクスクスと笑い合った。「素直じゃないというか、本当にめんどくさい人ですね。しかもお節介のおまけつき」「ふふふ。でも……こうなったらこっちも受けて立たなきゃ、よね?」「そうですね

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    「……馬鹿なこと、ですか?」 ハッキリと社長に言い切られて、私の怒りが一瞬で戸惑いに変わる。 こんな優しそうな雰囲気なのに、彼は全く遠慮のない言葉で話し続けた。 「そうだね。私が直接話をしに来たので、変な誤解を生んだのかもしれないけれども。そんなくだらない条件で君を本社に呼び寄せる事を、社長である私が承諾すると思うのかい?」 「それは、思いませんけれど。でも……」 要が頼んだのでなければ、いったい何故? 私はまだ本社に行きたいなんて希望は、今まで一度だって出したことなんてないのに。 「確かに君を知ったきっかけは、要君だよ。だけど長松さんの話を聞けば聞くほど、君が仕事熱心で優秀な人材だと知ることが出来たんだ」 「ありがとうございます。でも……」 柊《ひいらぎ》社長が私の事をきちんと評価したうえで、声をかけてくれている事は素直に嬉しい。 今まで何度も躓きながら、それでもこの会社で頑張ってきたのは本当の事だから。 だけどこんなに簡単に要《かなめ》のところまで行ってしまっていいのかと、戸惑っている自分もいて……「意外だな。正直、迷われるとは思わなかったよ。けれども君にとってかなり好条件な話のはずだから、今に気持ちだけで決めずゆっくり考えてみて欲しい」  私がこの話を断ろうとした事に気付いたらしく。 柊社長は返そうとして渡した書類を封筒に入れ直すと、笑顔のまま私の手に持たせてくれる。 ……分かっている。 今、この話を受ければ私はすぐにでも要の傍に行ける。彼と同じ本社で、自信をもって仕事をすることが出来るのだと。 そんな話がこのタイミングで出てきて、嬉しいはずなのに……「いきなり出て来た移動の話に、不安な気持ちがあるのはよくわかるよ。でも長松《ながまつ》さんは、いずれ本社勤務を希望するつもりだったのだろう?」「それは……その通りですけれど」 私が本社を希望する事を、柊社長は要から聞いたのかも知れない。グイグイと笑顔で押されて、私から断るという理由を奪われているようだった。「遅かれ早かれ、君は本社に来るつもりだった。そのチャンスがたまたま今だった。ただ、それだけだよ」 そう言ってニッコリと微笑んでから、柊社長は部屋の扉をさっさと開けた。 それはこの話の終わりを意味していて……「……では、長松さんからの良い返事を期待しているよ」

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